Q1:子供の時は一度も起きずに就寝していたのに、大人になると夜中に尿意で起きることがあるのはなぜでしょうか?

A1:大きく3つの原因が考えられます。1)夜間の尿量が増える、2)膀胱の容量が減る、3)睡眠が浅くなる、です。実際は、これらの原因が複合的に作用して夜間頻尿を引き起こしていると考えられています。

  • 夜間の尿量が増える。

夜になると薄い尿がたくさん出るようになるのがこのタイプです。尿の量が増えるので、当然何度もトイレに行くようになります。その原因は以下の通りです。

原因①:抗利尿ホルモンの分泌低下:若いころは睡眠時に尿を濃縮するホルモン(抗利尿ホルモン)が脳下垂体というところから分泌されて尿の量を減らしています。年齢とともにこのホルモンの分泌が減り、夜間の尿の濃縮がうまくできなくなります。

原因②:「知らず知らず浮腫」:高齢になると血管の老化や運動不足によって血管内の水分が血管外に知らず知らずのうちに漏れ出るようになります。心臓や腎臓の機能低下が原因のこともあります。私はこれを、「知らず知らず浮腫」と呼んでいますが、この漏れ出た水分が就寝中に血管内に戻ってきて尿の量を増やしてしまいます。

原因③:飲水過多:飲水が体にいいと思い込んで1日にたくさん水やお茶を飲んでいる方がいらっしゃいます。トイレに行くたびに水を飲むことを習慣にしている方もいらっしゃいます。「知らず知らず浮腫」とあいまって、日中処理できなかった余分な水分が就寝中に尿になって排泄されることが考えられます。欧米の研究を基に1日2リットル以上の飲水を勧めている医師もいますが、日本人の場合、食事に水分が多く含まれていることや欧米に比べて体形が小さいことから、1日食事以外で摂取する水分量は1.0~1.2リットルで十分だと思われます。

  • 膀胱の容量が減る。

膀胱は正常で300ml前後の尿をためることができます。尿がたまってくると膀胱内の圧力(膀胱内圧)が上がって脳に信号を送ります。脳は、その信号が無視できるレベルかを判断して尿意として感じるかどうかを決めています。膀胱内圧は150mlくらいから徐々に上がり始めます。膀胱の筋肉の柔軟性が保たれていれば膀胱内圧の上昇は極めてゆっくりなので、脳は250mlくらいまでは無視してもよいと判断して尿意を意識しません。ところが、加齢や膀胱の血流低下によって膀胱の柔軟性が低下すると膀胱内圧の上昇が急になって尿量が少なくても尿意を感じるようになります。時に急激な尿意を感じて失禁してしまうこともあります。これが膀胱の容量低下につながり、夜間頻尿を引き起こします。日中はすぐにトイレに行けるので気になりませんが、夜間は睡眠を妨げる原因になります。

  • 睡眠が浅くなる。

高齢になるほど睡眠は浅くなります。70歳以上で必要な睡眠時間は6時間といわれています。しかし、高齢になると午後9時には就寝して朝まで9時間以上も床にはいっている方も結構いらっしゃいます。若いころと比べて日中もそれほど運動もしていませんから、当然眠りは浅くなります。一般的に就寝後3時間を過ぎれば眠りは浅くなりますが、眠りが浅くなったタイミングに弱い尿意が重なるとトイレに行かないとすっきりしなくなります。特に朝方は眠りが浅いので頻繁にトイレに行く方が多い傾向にあります。高齢者は夜更かし早起きで十分だと理解していただくことが大切です。

 

Q2:夜中にトイレで起きることは良くないことなのでしょうか?

A2:夜中にトイレに起きることは危険が多いとされています。夜間排尿が2回以上ある人は1回以下の人の約2倍骨折のリスクが高いといわれています。要介護となる高齢者の約10%が骨折が原因といわれていますので、非常に大きな問題といえます。また、夜間排尿が2回以上だと死亡リスクも約2倍になると報告されています。夜間頻尿は、生活の質を落とすだけではなく、生命予後にも大きな影響を与える重大な病気ということが言えます。

 

Q3:夜中に尿意で起きるのを防ぐ方法を教えて下さい。

A3:以下の方法をお勧めしています。

1)「知らず知らず浮腫」を軽減する。これには、夕方の散歩をお勧めしています。歩くことによって血管外の水分が戻りやすくなります。また、足に弾性ストッキングを着用するのも有用です。

2)必要以上の水分を取らない。食事以外で取る水分は1.0~1.2リットルで十分です。

3)就寝前に入浴をゆっくりする。これによって、膀胱の血流が良くなって膀胱の柔軟性があがります。

4)寝すぎない。むしろ夜更かしするくらいがいいと思います。70歳以上は6時間の睡眠で十分です。

 

Q4:軽い尿意がある状態で睡眠をとることはだめなことなのでしょうか?

A4:正常な膀胱容量を超えるほどたまっていたら排尿しなければいけません。目安は300mlです。ご自分の夜間の尿量を測ってみることをお勧めします。1回300ml以下でしたら、そのまま我慢してもよいということになります。

 

Q5:2回以上トイレで起きることは病気ということになるのでしょうか。

A5:「夜間、排尿のために起きなければならない症状」を「夜間頻尿」と定義しています。厳密にいうと、1回でも夜間排尿のために起きれば夜間頻尿という病気だということになります。しかし、国内の全国調査によると、夜間排尿回数が1回以上の人は、40代で40%、60代で80%、80代では90%以上にのぼりました。70代の50%以上が2回以上で、さらに20~30%は3回以上排尿しています。こうなると、どこからが病気なのかの線引きが難しくなります。A2で述べたように、夜間2回以上夜間頻尿があると骨折のリスクや生命予後の低下が見られているので、一般には2回以上を治療の対象としています。ただ、各個々人で感じ方は様々ですので、生活の質に影響が出た段階で病気とみなすのが現実的だと思います。

 

馬車道さくらクリニック