当院の診察の様子を紹介する「今日の診察室から」。今回は、ここ最近排尿に時間がかかって困るとの主訴で受診された60歳代男性のKさんです。

Kさん「半年くらい前から、おしっこするの時間がかかります。」
私「トイレにたってからすぐに尿は出ますか?」
Kさん「いいえ、出るのに時間がかかります。出てもチョロチョロで、終わっても尿が残っている感じがします。」
私「なるほど。では、この質問票に記入してみてください。」

 

 

IPSS

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れは、排尿の状態をご自身の自覚症状に照らして評価する質問票で、IPSSと呼んでいます。特に男性では、「前立腺肥大症」の症状の評価にこの質問票が用いられています。それぞれ該当する数字の合計点で重症度をみます。合計点が0-7点で軽症、8-19点で中等症、20点以上で重症の排尿障害があると考えられます。また、QOLスコアでは、0-1点で軽症、2-4点で中等症、5-6点で重症といわれています。

・・・前立腺肥大症とは? 前立腺は精液を作る臓器で、膀胱の直下に存在します。前立腺の中をトンネルのように尿道が通っていまして、この前立腺が腫大して大きくなると、尿道を周囲から押しつぶしてしまって尿の通りを悪くします。これが前立腺肥大症です。

・・・検査は? 中等症以上の排尿障害のある方には、直腸診、尿流測定(ウロフロー)、排尿後の残尿量測定、超音波検査で、原因を判断します。場合によっては、尿道膀胱鏡(尿道カメラ)や尿道造影検査を行うこともあります。また、前立腺肥大症と診断されれば、その程度によって治療方針が変わってきます。それから、前立腺癌の有無を確認するために、血液検査によってPSA値を測定します。前立腺肥大症と前立腺癌は直接因果関係はありませんが、両方ともその病気になりやすいといわれる危険因子(リスクファクター)には共通する部分が多いので、確認する必要があると考えています。

・・・治療は? まずは薬物治療となります。前立腺肥大症になると、初めにおこる異常は尿道の緊張です。通常、排尿時にはおしっこを止めるように栓をしている尿道の筋肉がゆるんでゲートを開けます。これに同期して膀胱の収縮が起こっておしっこが出ます。前立腺肥大症では、この尿道の緊張が解けないことがまず問題となります。α1受容体遮断薬というタイプの薬は、尿道の緊張を取るのに有効です。そのほか、前立腺を含めた周囲の炎症を抑えて血流を改善する植物製剤や、漢方薬、膀胱の過敏を抑える抗コリン薬も有用です。ときに前立腺を小さくする抗男性ホルモン薬も使用されますが、通常はα1受容体遮断薬などの効果が不十分の時に使用が検討されます。 薬物治療で改善がないときや、おしっこが慢性的に詰まって出なくなっているときには、手術が必要になることがあります。尿道から内視鏡を入れて前立腺の肥大した部分を電気メスやレーザーで取り除く方法が一般的です。通常、4-7日間ほどの入院が必要になりますが、安全で確実な方法ですので、ご心配はいりません。

当クリニックでは、正確な診断を心掛け、手術が必要な患者さんには近隣の泌尿器科を紹介しています。

馬車道さくらクリニック